Masukそれから仲間と他愛もない話を交わし、別れて家に帰ってから気が付いた。
迷惑をかけてしまった女性にクリーニング代を渡すのを忘れてしまった、と。あああしまったぁぁぁ…。
あの人、また店に来るかな…。 お会いできるまで、どうせ家に帰っても食事の用意がないから、暫くあの店に通おうかな。定食っぽくなるように注文すれば十分晩御飯として成立しそうだ。というわけで翌日から『大吉酒場』へ通うことにした。
彼女は結婚しているから、そうそう会えないかもしれない。でもクリーニング代を渡さないと気がすまない。連絡先も聞いていないし、名前もわからないので店に頼むこともできない。自力で探すしか…。 そう思っていたのも束の間。翌日同じようにカウンターで飲み食いしていると、ひとつ席を空けた先に見覚えのある女性が座った。 「「あっ」」 彼女だ!「よかった。お会いすることができて。僕、あなたにクリーニング代をお渡ししようと思って、ここに来
『えええそんな聞いてないです……』『聞かれませんでしたから』 あのかっこよさだったら誰でも勘違いしますよね。男だと思いますとも!『わ、私は……男性が好きなので…女性の方は…』 それを聞いてにこにこしていた聖さんがすっと顔色を変えた。『今、なんて言ったコラぁ?』 丁寧占い師から急展開でオラオラ系に大変身ですかっ。 例の怪力を武器に、指をゴキゴキと恐ろしい音を立てて鳴らしている。『僕が女性だってわかったら手のひら返すのかよ』 聖さんがぐい、と彼女の頬をひっつかんだ。『ひっ……』 お局はすでに涙目だ。 ぷぷっ。笑っちゃいけないけど、笑っちゃう! 『僕が好きだから一緒になりたい、運命の人だってって言ったのは嘘かぁ!? 乙女心弄びやがったのかよコ”ル”ぁ”!!』 聖さんが吠えた。 お局は涙を流して震えている!! あはは最高。 北都(聖)さんは乙女なのね。納得。『ご……ごへんなふぁあうい……』 頬を握りつぶさんばかりの勢いで力を入れられているので、顔が変形しそうだ。お局はまったくちゃんと喋れていない。『ゆ……ゆ”る”じでぇ……』『許す? 僕たちこれからなのに?』『ぁぁ”ぁぁ……』 お局は恐怖におののき涙をぼろぼろ零している! あははっ。ざまあ!『ず……ずびばぜん”……』『仕方ない。じゃあ、今までの行いを懺悔して。あとは僕があなたの面倒を見るから。職場でひどい目に遭わせた社員たち、武田さん、他にも大勢…今すぐ、懺悔しようね。悪しき怨念を断ち切って、罪を浄化させよう。いいね? 慰謝料払って職場を辞めると宣誓するだけの簡単な話だから』『ひっ……ひっく……』 聖さんは泣いているお局に向かってスマートフォンのカメラを向けた。『さあ、画面の前で誓って』『ひぃぃぃん……っ』『泣いてないでさっさと言え
『どんな風に邪魔をされたのですか?』『簡単よ。共有に入っていたデータを隠したり、操作してやったのよ。変に仕事ができるからそれがネックで。無能っぷりをアピールさせてやろうと思って、ちょっと権限使っていじっちゃった♡』 ド ク ズ が ぁ ― !(怒)『悪い女性(ひと)だ』『そのくらい腹が立って……』『でも、そんなあなただから僕は惹かれた』 ぎゅっとお局の背中を抱きしめ、肩にキスをする。『あ…聖さん…』『ほかにはないのですか? あなたがどれほどの悪女か、僕は知りたい。正直に話せば、これ以上のことも……』 そっとお局の胸の膨らみに手を添える聖さん。 きゃー、それ、落ちるやつ! 陥落するやつ!!『ほ、他の社員もッ……難癖付けて辞めさせたりとか……ッ、アアンっ』『ほかには?』『そ、それから……いうこと聞かないやつは…っ、さ、左遷にしたりとか…す、ストーキングして、ノイローゼにさせたり……』『もっとあるでしょう?』 ぐっと強く胸を掴んだ。『アアン、聖さんッ!』『早く言わないと、このまま帰りますよ?』『待って! 言うわっ。言うからやめないでぇ……』 それからお局は、息も絶え絶えにアンアン言いながら秘密をぜんぶ暴露した。 やばい。この人ずっとこんなことしてきたんだ。 社員への嫌がらせ、ストーキング、業務妨害…。ほんとクズ。明日、会社で引導を渡してやる! そして悶えに悶えたお局。あられもない格好でぜえぜえと息をしている。『佳子さん、僕と一生添い遂げてください。あなたを愛している』『あああ、聖さん、スキっ。スキぃっ、
運転があるからバッキンがお酒を飲めないので、ふたりでノンアルコールドリンクで飲みの席の雰囲気を楽しんでいると、北都さんから連絡が入った。『リオ、そっちの首尾はどう?』「ボス、お疲れ様です。いい感じです!」 スパイみたいで面白いので、ついワルノリして言った。『ボスか。悪くない』 北都さんは満足げだ。『それよりリオ、いい映像撮れたから、帰りに大吉寄って。店開けておくから』「ほんとうですか? じゃあ、今から行きます」『デート終わってからでいいよ』「いえ。そういうわけにはいきません。今日は十分楽しみましたし、北都さんが頑張って下さった報告、聞きたいです」『いい心がけだね♡ カイと一緒においで』「はい」 電話を切り、バッキンに今の話を告げるとすぐに行こうと食事を切り上げて車を出してくれた。秋葉原まで急ぎ、近隣の駐車場に停めて居酒屋大吉へ。「北都さん、お休みのところありがとうございます」「悪者退治に休みなんて関係ないから」 ケラケラと笑ってくれる北都さん。うう…大好きです!! そして今日は男性の方の北都さんの格好だ。相変わらず背も高くて凛々しくお洒落。女子はみんな落ちるやつだ。「お土産のおすそわけです。おひとつどうぞ」 ぷにぷに肉球もちという、その名のとおり肉球がおもちみたいにぷにぷにしているマスコットをあげた。今日のゲーセンの戦利品のひとつだ。「アラかわいい♡」 北都さんが笑ってくれた。素敵な笑顔だ。「早速だけど、撮ってきた映像見てくれる? 確認して欲しい」 用意してくれたノートパソコンをこちらに向けられた。 動画の再生モードにストップがかけられている状態だったので解除した。すると画面が動き出す。映っているのはヒキのカメラに捕らえられたふたりの男女。ひとりは北都さん、もうひとりは――(お局!!) ごくり、と生唾を飲み込んだ。いったいどんな映像が…。『佳子さんは頑張
車の中では緊張しないようにペラペラと私がしゃべった。今日行くゲームセンターはクレーンゲームがいっぱいあるとか、キンモンで久々に親友がログインして一緒にプレイしたとか、とにかく喋った。サングラスをかけたバッキンは「うんうん」と私の話を聞いてくれた。 (ああぁ~バッキンなんでこんなにカッコいいのぉぉぉ……!) 始終ドキドキしっぱなしだったが、ゲームセンターに到着したらそんなの関係ない状態。レースゲームでふたりで本気の対戦、UFOキャッチャー2000円でぬいぐるみ何個取れるか勝負したり、海賊船シューティングゲームで得点競いながら鬼コンボ決めて魔王討伐したり、とにかくとにかく、ゲーム好きの私たちには最高の時間を過ごした。 色気もなにもない白熱デートを終え、ご飯を食べて帰ろうということになった。軽いドライブの後、カジュアルルックでも入れる創作居酒屋のお店に行った。「今日、楽しかったね~」 普通にゲーム白熱した。たぶん女子力高い人は、バッキンと一緒に「おりゃあああ」という雰囲気で銃をぶっ放さないだろう。「最高に楽しかった。こんな楽しいデート初めて!」「ほんと? 良かったぁ」 バッキンは楽しんでくれた模様!「リオリオがあんなにバイキングゲームうまいなんて」「一人でオールクリアできるよ」「俺もやりまくったから一人でオールクリアできる」「ぷはっ。バッキンさすが~。今度”太鼓の超人”で対戦しよう!」 太鼓の超人とは、いわゆる音ゲーで曲に合わせて太鼓をたたくというシンプルなゲーム。多分、日本中の誰もが知っているゲームだと思う。 「リオリオめちゃ強そうだな」「当然でしょ。フルコンボクリアは当たり前」「まじ? 腕前えぐいな。俺、ゲーセン通って練習しよっかな」「じゃあ、一緒にゲーセン通いしようよ」「それじゃ練習になんないだろ」「そっか。じゃ、やめとく?」「いや、一緒に行こう。リオリオとゲーセン巡りやりたいな。めちゃくちゃ楽しい」
「普通に昨日パーティーに着て行ったような感じで、普段使いとかデートに使えそうなセットを持ってきて」 北都さんがひと睨みして店内奥に金さんを追いやった。次に金さんが持ってきたのがまともなデート服だったので、ほっと胸をなでおろす。また変な服を持ってきたらどうしようかと思った。 彼(彼女?)の口添えもあり、モテデート服のコーデができあがった。ガーリーな仕上がりだ。デニムの袖にデニムスウェットを利用した、面白いデニムの7分袖トップス、ふんわりとしたコーラルピンクのティアードロングスカート、キャンバス生地の紺色スニーカー。私好みのカジュアルスタイルだけれども、お洒落! 金さんがいろいろ持ってきて中から北都さんが選んでくれた。「やーん、リオかわいい~♡」「いいじゃないか。馬子にも衣裳だ」 ひとこと余計な金さんのお褒めの言葉までいただき、デートコーデがこれで決まった。「あとはメイクだね。リオは美人なのにぜんぜんお化粧っけがないもんね。肌もキレイだし羨ましい~」 私は北都さんの方が羨ましいです! 時には女性、時には男性、変幻自在にどっちにもなれる正義の北都さんが…!「さあ、メイク術伝授するからしっかり覚えてね」「はい!」 北都さんの綺麗な指が私の頬に触れる。わぁ~ドキドキ! ベースメイクから基礎を教えてもらい、眉の描き方、ラインの引き方なんかを学んだ。これだけでかわいくなれそうな気がした。 ――リオナはホクトからメイク術を学んだ! ――リオナはメイクがうまくなった! ――リオナは”デートコーデの洋服”を手に入れた! ――リオナは女子力が大幅にアップした! ――リオナはレベルがあがった! なんだかんだと金さんと北都さんと一緒にいたので、買い物をして帰ったら夕方になっていた。明日に向けて準備だ…! ドキドキしながら迎えた夜。眠れないのかと思いきや、結構ぐっすり眠れたメンタルつよつよ女子の私。お洒落な服に身を包み、北都さん直伝のメイク術で
決戦の金曜日をこなし、準備の土曜日。大決戦の日曜日に向けて私は『なんでも売買屋』を訪れた。そして北都さんの協力を求め、彼女も適当に店に来るように頼んである。「いらっしゃいませ! …なんだ、里緒菜さんでしたか」 張り切って損したみたいな言い方をされ、お客として歓迎されていないと知る。「今日はお洋服買いに来たのに」「そうでしたか。それはそれは。ゆっくり商品を見て行ってください」 手のひらを返され、手厚い歓迎を受けた。わかりやすい人だ。「金さん、買い物の前にレンタルしたブローチを返します。データをこのUSBに入れてください。お買い物するから、データの移行料はサービスして欲しいです」 内臓カメラを仕込んだブローチを返却した。「いいでしょう」 よし! 後は北都さんが来てくれたら、諸々セットで1万円くらいで買えるはず。 しっかり似合ういい洋服選ぼう~っと♪――リオナは悪知恵が働くようになった! 洋服を見ていると、北都さんがやってきた。今日は女性の方だ。「やっほー、リオ。昨日はお疲れ♡」「北都さん!」「なんでお前がここに…」 金さんは嫌そうな顔をしている。「今日はさ、リオのために来たんだ。私のメイク術、明日のデートに備えて伝授しようと思ってね」「デート? ああ…なるほど」 金さんも私がバッキンとデートへ行くことをわかってくれたようで、こほん、とひとつ咳ばらいをした。「それで洋服を買いに来られたわけですね」「はい。デートで大成功する、いいお洋服を買いたいです」「オーケー。こうなったら腕によりをかけて、里緒菜さんが櫂君とのデートが成功する衣装を選んでみせようじゃないか!!」――カネナリが本気になった! 「これはどうだ!」(効果音:バーン)――カネナリはとっておきのアイテム”バニー
その日、建真は結局帰ってこなかった。どうなっているのかはわからない。 一人の朝は平和だった。北都さんから連絡が入っていて、今日の夜に大吉で結果報告を受けることになった。 建真がいないと朝が楽。簡単に朝食を済ませ、空いている電車で会社に出勤。あー最高! 毎日こんな生活したい! すっきりいい気分で仕事がはかどった。多分スキルアップしていることだろう。 そして昼休み。改心した晴奈が、証拠をかき集めてくれたものをすぐ渡したいから会って欲しい、と建真との関係した証拠をUSBに収めたものを持って私を訪ねて来てくれたので、会社近くのカフェで落ち合った。
私の脳内で緊迫感のある戦闘BGMが流れている。 今日は不戦勝で証拠ゲットよ!!「ああ。ただいま」 建真は穏やかな返事を寄こしてきた。あれ。なんかいつもと違うな…。 もっとこう、ほら、いつもみたいに『お前となんかデキねえよ』とか『頭悪いな』とか、そういう類でガンガン攻めてきてよ~! そっちが来ないなら、こっちから行くわよ!!「あの…建真。今月生活費が足りなくて…用立てして欲しいんだけど」「いくら?」 んっ…なに、その返しは!? 思っていたのと違う…(汗)
「そんな……言っていいことと悪いことがあります!」「仕方ありません。妻が娘にそう教えているんです。家庭に僕の居場所はありませんから」 悲しそうに航大さんが俯いた。そんな、ひどいよ!!「航大さん。私もあなたが幸せになれるようにお手伝いします!」 夫を倒すお手伝いをしてくれる航大さんのために、私もひとはだ脱ぎたい。勇者として仲間のピンチを助けるのは当然のこと!「紀美さん、ありがとうございます。一人で家に帰っても居場所もなくて辛いですから、ここで時々愚痴を聞いて下さるとありがたいです。多分僕と妻はもう修復不可能です
「お届け物でーす」 来客を確認すると宅配便のドライバーだった。『山下』と名札の付いた宅配業者のお兄さんから荷物を受け取った。彼は帽子を取って会釈をしてくれる爽やかなお兄さんだった。どこかで見たことがある爽やか青年だけれども、どこで見たかな。思い出せない。うーん…確か彼も魔王とか呼ばれていたような気がする…。(わかる人ありがとう) …まあいいや。爽やか山下さんはとにかく建真とは大違いだった。 受け取った荷物を見てみた。品名はゴルフ用品。私から巻き上げたお金で買ったんだろうか。それとも私が必死に稼いだお金は、全部晴奈への貢ぎ物で消







